加圧トレーニングの作用機序と科学的根拠 2024年10月23日 4:28 PM axel-admin

加圧トレーニングの作用機序と科学的根拠

 
加圧トレーニング(KAATSUトレーニング)は、血流を部分的に制限することで、筋力を効果的に向上させるトレーニング方法です。特に、中高年層や運動初心者でも負担が少なく、短時間で結果を出しやすい点が特徴です。ここでは、その作用機序(メカニズム)と科学的根拠について説明します。

1. 加圧トレーニングの作用機序

 
血流制限による負荷のシミュレーション 加圧トレーニングでは、専用の加圧ベルトを腕や脚の付け根に巻き、血流を適度に制限します。これにより、筋肉内の血液が滞留し、筋肉が「大きな負荷を受けている」と感じます。通常のトレーニングでは高重量を扱うことで筋肉に負荷をかけますが、加圧トレーニングではこの血流制限によって、軽い負荷でも筋肉に大きな刺激を与えることができるのです。

 
低酸素状態のシミュレーション 加圧によって血液が筋肉に十分に供給されない状態では、筋肉は酸素不足(低酸素状態)になります。この状態は、筋肉にとって「高強度の運動をしている」と認識され、筋繊維(特にタイプIIの速筋繊維)が活性化されます。通常、速筋繊維は高負荷の運動時にしか使われないため、低負荷でも効率的に速筋を鍛えることができるという効果があります。

 
成長ホルモンの分泌促進 加圧トレーニングでは、血流が制限された状態でトレーニングを行うため、乳酸などの代謝産物が筋肉内に蓄積されやすくなります。乳酸の蓄積は身体にストレスを与え、このストレスに対抗するために成長ホルモンの分泌が促進されます。成長ホルモンは筋肉の修復や増強だけでなく、脂肪燃焼やアンチエイジング効果にも寄与します。

 
血管内皮細胞の機能改善 加圧トレーニングは、血流制限による血管の圧力変化が血管内皮細胞に刺激を与えるため、血管の機能を改善する効果も報告されています。これにより、血流が改善され、トレーニング後の回復力が向上し、動脈硬化の予防効果も期待されています。

2. 科学的根拠

 
筋力増加に関する研究 加圧トレーニングは、軽い負荷でも筋力や筋肥大を促進することが科学的に証明されています。例えば、軽い負荷(20~30%の1RM:最大挙上重量)を使用した加圧トレーニングでも、重い負荷(70~80%の1RM)を使った通常のトレーニングと同等の筋肥大効果が得られることが研究で示されています【1】。

 
成長ホルモン分泌の増加 いくつかの研究では、加圧トレーニングを行った後、通常のトレーニングよりも数十倍の成長ホルモンの分泌が確認されています。これは筋肉の回復や脂肪燃焼、肌の再生に大きく寄与し、アンチエイジング効果の科学的根拠となっています【2】。

 
血管機能への影響 加圧トレーニングは、血管内皮細胞の働きを活性化させ、血流の改善に寄与することが研究で示されています。これは、心血管疾患の予防やリハビリテーションにも効果的である可能性が指摘されています【3】。

3. メリットとデメリット

 
メリット
  • 軽い負荷で筋力を増強できるため、関節や骨に負担が少ない。
  • 成長ホルモンの分泌促進により、脂肪燃焼やアンチエイジング効果が期待できる。
  • 短時間で効果が得られるため、忙しい人や運動初心者にも続けやすい。
  • 血流改善効果があり、回復力向上や心血管機能のサポートも期待される。
 
デメリット
  • 血流制限を行うため、誤った方法や過度の加圧は危険な場合がある。専門的な指導が必須。
  • 重い負荷をかけるトレーニングには劣るため、競技レベルの筋力増強には向かない。
  • 一部の持病(特に循環器系)のある方には適さない可能性がある。

まとめ

 
加圧トレーニングは、軽い負荷でも筋力を効率的に増強し、成長ホルモンの分泌を促進することで、健康的な体づくりをサポートする革新的なトレーニング方法です。科学的根拠に基づいたトレーニングで、中高年層や女性の方々が無理なく続けられる点が大きな魅力です。

 



 
 
参考文献 【1】Takarada, Y., et al. (2000). Effects of resistance exercise combined with moderate vascular occlusion on muscular function in humans. Journal of Applied Physiology, 88(6), 2097-2106.
【2】Abe, T., et al. (2006). Skeletal muscle size and circulating IGF-1 are increased after two weeks of low-intensity “KAATSU” resistance training. International Journal of KAATSU Training Research, 2(2), 51-56.
【3】Nakajima, T., et al. (2006). Low-intensity exercise “KAATSU” training improves vascular endothelial function. European Journal of Applied Physiology, 96(4), 457-463.